退職金で住宅ローンを一括返済すべきか?後悔しないための判断ポイントを徹底解説
定年退職を迎え、まとまった退職金を手にしたとき、多くの人が頭を悩ませるのが「住宅ローンの残債をどうするか」という問題です。長年払い続けてきたローンを退職金で一括返済してスッキリしたい気持ちと、老後の生活資金が減ってしまうことへの不安との間で、決断できずにいる方も多いのではないでしょうか。本記事では、退職金で住宅ローンを一括返済する際のメリット・デメリットを、「税金」「心理的負担」「金利・利息」の3つの視点から初心者にも分かりやすく徹底比較します。さらに、ご自身の状況に合わせて最適な選択ができるよう、具体的な判断基準もご紹介します。後悔のないセカンドライフの第一歩を踏み出すために、ぜひ最後までご覧ください。
一括返済 vs 分割継続 メリット・デメリット早わかり比較表
まずは、退職金で住宅ローンを「一括返済する」場合と、これまで通り「分割返済を続ける」場合のメリット・デメリットを一覧で比較してみましょう。
一括返済する | 分割返済を続ける | |
---|---|---|
メリット |
|
|
デメリット |
|
|
【税金面】「住宅ローン控除」と「退職所得控除」の損得勘定
税金の観点では、「退職金にかかる税金」と「住宅ローン控除」の2つが重要なポイントです。一見複雑に思えますが、仕組みを理解すれば有利な選択が見えてきます。
メリット:手厚い「退職所得控除」で税負担は軽い
退職金は、長年の功労に報いるという意味合いから、税制面で非常に優遇されています。「退職所得控除」という大きな非課税枠が設けられており、勤続年数が長いほど控除額も大きくなります。 [4, 11] 例えば、勤続35年の場合、退職所得控除額は1,850万円(800万円 + 70万円 × (35年 – 20年))にもなります。 [4, 9] 仮に退職金が2,000万円でも、課税対象となるのは控除額を超えた150万円のさらに半分の75万円だけです。 [12] このように、退職金は他の所得に比べて税負担が大幅に軽くなるため、一括で受け取っても大部分を手元に残せるのが大きなメリットです。 [16]
デメリット:「住宅ローン控除」が打ち切りになる
一方で、注意したいのが「住宅ローン控除(住宅ローン減税)」です。これは、毎年末のローン残高の0.7%を所得税などから差し引ける制度で、大きな節税効果があります。 [14] しかし、退職金でローンを一括返済すると、その年以降の住宅ローン控除は受けられなくなってしまいます。 [14, 27] もし控除期間がまだ何年も残っている場合、一括返済によって得られる利息の軽減額よりも、失う節税額の方が大きくなってしまう「逆ザヤ」状態になる可能性も。特に、現在のローン金利が非常に低い方は、慌てて返済する前に、あといくら控除を受けられるのかを試算してみることが重要です。 [16, 27]
【心理面】「借金ゼロの安心感」 vs 「手元資金減少の不安」
お金の問題は、数字だけでなく気持ちの面も大きく影響します。「借金がなくなる安心感」と「貯蓄が減る不安」、どちらを重視するかは人それぞれです。
一括返済派の安心:精神的なプレッシャーからの解放
「老後に借金を抱え続けるのは精神的に辛い」と感じる方は少なくありません。 [14] 定年後は現役時代のように安定した収入が見込めなくなるため、毎月のローン返済が大きなプレッシャーになることがあります。一括返済をすれば、この重圧から解放され、すっきりした気持ちでセカンドライフをスタートできるでしょう。 [15, 22] この「心の平穏」は、金額には代えがたい大きなメリットと言えます。
分割継続派の安心:いざという時の蓄えと「団信」の存在
反対に、「退職金というまとまったお金を使ってしまう方が不安だ」という意見もあります。 [14, 16] 老後は、病気や介護、家のリフォームなど、予期せぬ出費が発生しがちです。一括返済によって手元資金が心許なくなると、こうした不測の事態に対応できなくなるリスクがあります。 [14] また、見逃せないのが「団体信用生命保険(団信)」の存在です。 [2] 団信は、ローン契約者に万が一のことがあった場合に残債がゼロになる保険で、多くの住宅ローンで加入が義務付けられています。 [2, 5, 7] ローンを完済すると、この団信の保障も同時に消滅してしまいます。 [14, 15] 高齢になってから民間の生命保険に新たに入ろうとすると、保険料が割高になったり、健康状態によっては加入できなかったりするケースもあるため、団信の保障を継続するためにあえてローンを残すという考え方もあります。 [2, 14]
【金利・利息面】支払う利息を減らす効果と将来の金利動向
損得を考える上で最も分かりやすいのが、金利と利息の計算です。繰り上げ返済が利息の節約につながるのは事実ですが、将来の金利動向も考慮に入れる必要があります。
繰り上げ返済による「利息軽減効果」は大きい
繰り上げ返済の最大のメリットは、将来支払うはずだった利息を節約できることです。 [15, 22] 特に、ローン残高が多く、返済期間が長く残っているほど、その効果は絶大です。例えば、ローン残高1,000万円、金利1.5%、残り期間15年の場合、支払う利息の総額は約120万円にもなります。これを一括返済すれば、その120万円が丸々浮く計算になります。金利が高いローンを組んでいる方ほど、一括返済の恩恵は大きいと言えるでしょう。
注意点:将来の金利上昇リスクと現在のローン金利
ご自身のローンが「変動金利」か「固定金利」かによって、考え方が少し変わります。長らく続いた超低金利時代は終わりを告げ、2024年以降、日本銀行はマイナス金利政策を解除し、金利は上昇局面にあります。 [19] 2025年に入ってからも追加利上げが行われ、今後も変動金利は緩やかに上昇していくと予測されています。 [13, 17] 変動金利でローンを組んでいる方は、将来的に返済額が増えるリスクを抱えているため、金利が低いうちに返済してしまうのが得策と考えることもできます。 [19] 一方で、すでに全期間固定の低金利で契約している場合は、金利上昇のリスクがないため、急いで返済する必要性は低いかもしれません。 [20]
【結論】あなたはどっち?状況別・一括返済の判断目安
これまでの内容を踏まえ、どのような人が一括返済に向いているのか、また、分割返済を続けた方が良いのか、具体的なケースをまとめました。ご自身の状況と照らし合わせてみてください。
一括返済をおすすめする人の特徴
- 老後資金に十分な余裕がある人: 一括返済しても、夫婦2人でゆとりある老後を送るための生活費(月額平均37.9万円)を賄えるだけの十分な貯蓄が残る人。 [3, 6, 8]
- 住宅ローン控除の期間が終了している人: すでに控除の恩恵を受け終わっているなら、ローンを残しておく税制上のメリットはありません。 [14]
- 借入金利が高く、金利上昇が不安な人: 特に変動金利で、今後の金利上昇による返済額アップを避けたい人。 [19, 20]
- とにかく「借金ゼロ」で精神的に安心したい人: 毎月の返済のプレッシャーから解放されたいという気持ちが強い人。 [14]
分割返済の継続をおすすめする人の特徴
- 老後資金に余裕がない人: 一括返済すると手元資金が大きく減り、最低限の日常生活費(月額平均23.2万円)の確保も難しくなりそうな人。 [1, 3, 10, 14]
- 住宅ローン控除のメリットを最大限活かしたい人: 控除期間がまだ長く残っており、節税額が支払利息を上回る可能性がある人。 [14, 16]
- 借入金利が非常に低い(全期間固定)人: 1%未満などの超低金利で固定されている場合、インフレのリスクヘッジとして手元に現金を残しておく戦略も有効です。
- 手厚い団信の保障を継続したい人: がん保障など、民間の保険より有利な特約が付いた団信に加入している人。 [2, 5]
- 手元にまとまった資金がある方が安心できる人: 借金があることより、預貯金が少ないことへの不安が大きい人。
まとめ:後悔しない選択のために、まずは現状把握とシミュレーションを
退職金による住宅ローンの一括返済は、老後の家計を大きく左右する重要な決断です。正解は一つではなく、個々の資産状況やライフプラン、そして価値観によって最適解は異なります。 [14, 16] 本記事で紹介した3つの視点(税金・心理・金利)を参考に、まずはご自身の「ローン残高と金利」「住宅ローン控除の残り期間と金額」「退職金額とその他の貯蓄額」「老後の収支見込み」を正確に把握することから始めましょう。その上で、一括返済した場合と、しなかった場合のそれぞれの未来を具体的にシミュレーションしてみることが、後悔しない選択への一番の近道です。必要であれば、ファイナンシャルプランナーなどの専門家に相談し、客観的なアドバイスを求めるのも良いでしょう。 [14]